国際私法関係の法律・条約・資料
■ 民事訴訟手続に関する条約 (昭和45年6月5日−条約第6号)
         − 目 次 −
 T 裁判上及び裁判外の文書の送付(第1条−第7条)
 U 司法共助の嘱託(第8条−第16条)
 V 訴訟費用の担保(第17条−19条)
 W 無償の訴訟上の救助(第20条−第24条)
 X 身分証書の無償交付(第25条)
 Y 身体の拘束(第26条)
 Z 最終規定(第27条−第33条)


 この条約の署名国は、
 千九百五年七月十七日の民事訴訟手続に関する条約に対し経験によつて示唆された改良を加えることを希望し、
 そのため新たな条約を締結することに決定して、次のとおり協定した。

T 裁判上及び裁判外の文書の送付

第1条
民事又は商事に関し、外国にいる者にあてた文書の送達は、嘱託国の領事官から受託国の指定する当局にあてた要請に基づき、締約国において行なわれる。その要請書は、転達される文書を発出した当局の表示、当事者の氏名及び資格、名あて人のあて先並びに当該文書の種類を記載するものとし、かつ、受託当局の用いる言語で作成する。受託当局は、送達を証明し又は送達を妨げた事由を明示する書類を前記の領事官に送付する。
 領事官の要請に関連して生ずる紛議は、外交上の経路を通じて解決する。
 各締約国は、他の締約国にあてた通告により、自国の領域において行なわれるべき送達の要請書が第一項の事項を記載して外交上の経路を通じて自国に提出されることを希望することを宣言することができる。
 この条の規定は、二の締約国がそれぞれの当局の間で直接に送付を行なうことを認めるための取極を行なうことを妨げるものではない。

第2条
送達は、受託国の法律上権限を有する当局が行なう。その当局は、次条の場合を除くほか、文書の送達を、任意に受領する名あて人への交付に限ることができる。

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第3条
要請書には、送達すべき文書二通を添付する。
 送達すべき文書が受託当局の用いる言語若しくは両関係国間で合意する言語で作成されている場合又はそれらの言語のいずれか一方による翻訳文がその文書に添付されている場合には、受託当局は、類似の送達の実施について国内法で定める方法又は国内法に反しない特別の方法によつてその文書を送達する。ただし、その旨の希望が要請書に表明されている場合に限る。その旨の希望が表明されていない場合には、受託当局は、まず、前条の交付を行なうように努めるものとする。
 前項の翻訳文は、反対の取極がない限り、嘱託国の外交官若しくは領事官又は受託国の宣誓した翻訳者がその正確であることを証明する。

第4条
第一条から前条までに規定する送達の実施は、その送達が行なわれるべき領域の属する国によりその主権又は安全を害する性質のものであると判断される場合を除くほか、拒否することができない。

第5条
送達の証明は、日付を付されかつ認証された名あて人の受取証又は受託国の当局が送達の事実、方法及び日付を確認する証明書によつて行なう。
 前項の受取証又は証明書は、送達すべき文書二通のいずれか一方に付記し又は添付する。

第6条
第一条から前条までの規定は、次の権能の行使を妨げるものではない。
1 外国にいる利害関係人に対して直接に文書を郵送する権能
2 利害関係人が直接名あて国の裁判所附属吏又は権限のある官吏に送達を行なわせる権能
3 各国が外国にいる者に対する直接の送達を自国の外交官又は領事官に行なわせる権能
 前項に掲げるいずれの権能も、関係国間の条約によつて認められるとき、又は条約がない場合において送達が行なわれる領域の属する国が拒否しないときに限り、認められる。その国は、同項3の場合において、嘱託国の国民に対し強制によらないで文書を送達すべきときは、これを拒否することができない。

第7条
送達については、いかなる種類の料金又は費用の償還をも請求することができない。
 もつとも、受託国は、反対の取極がない限り、裁判所附属吏の介入又は第三条にいう特別の方法の利用から生ずる費用の償還を嘱託国に請求することができる。

U 司法共助の嘱託

第8条
締約国の司法当局は、民事又は商事に関し、他の締約国の権限のある当局がその管轄区域内で証拠調べその他の裁判上の行為を行なうよう、自国の法律に従い、その当局に対して司法共助を嘱託することができる。

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第9条
司法共助の嘱託は、嘱託国の領事官により、受託国の指定する当局に転達される。この当局は、受託事項の実施を確認し又はその実施を妨げた事由を明示する書類を当該領事官に送付する。
 前項の転達に関連して生ずる紛議は、外交上の経路を通じて解決する。
 各締約国は、他の締約国にあてた通告により、自国の領域において実施すべき司法共助の嘱託が外交上の経路を通じて転達されることを希望することを宣言することができる。
 この条の規定は、二の締約国がそれぞれの当局の間で直接に司法共助の嘱託を転達することを認めるための取極を行なうことを妨げるものではない。

第10条
司法共助の嘱託書は、反対の取極がない限り、受託当局の用いる言語若しくは両関係国間で合意される言語で作成するものとし、又はそれらの言語のいずれか一方による翻訳文であつて嘱託国の外交官若しくは領事官若しくは受託国の宣誓した翻訳者がその正確であることを証明したものをこれに添付する。

第11条
司法共助の嘱託を受ける司法当局は、自国の当局からの嘱託又は関係当事者からの類似の請求について用いられる強制方法と同様の強制方法によつて当該受託事項を実施する。その強制方法は、当事者の呼出しについては用いることを要しない。
 受託当局は、嘱託当局の要請がある場合には、求められた措置に関係当事者が立ち会うことができるように、その嘱託当局に対しその措置をとる期日及び場所を通知する。
 受託事項の実施は、次の場合を除くほか、拒否することができない。
1 書類の真正が立証されない場合
2 その実施が受託国において司法権に属しない場合
3 その実施が、その行なわれるべき領域の属する国によりその主権又は安全を害する性質のものであると判断される場合

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第12条
司法共助の嘱託は、受託当局が権限を有しない場合には、その当局の国の法律の定めるところに従い、職権によつてその国の権限のある司法当局に転達される。

第13条
受託当局は、その受託事項を実施しないときは、その旨を直ちに嘱託当局に通知するものとし、その際、第十一条の場合にはその実施を拒否した理由を、また、前条の場合には嘱託が転達された当局を明示する。

第14条
受託事項を実施する司法当局は、遵守すべき手続に関して自国の法律を適用する。
 もつとも、前項の司法当局は、嘱託当局が特別の方法によつて実施することを要請する場合には、その方法が自国の法律に反しないものである限り、その要請に応ずる。

第15条
第八条から前条までの規定は、各国が自国の外交官又は領事官に受託事項を直接実施させることを妨げるものではない。ただし、関係国間の条約がそのような実施を認めている場合又はその受託事項が実施されるべき領域の属する国がそのような実施を拒否しない場合に限る。

第16条
受託事項の実施については、いかなる種類の料金又は費用の償還をも請求することができない。
 もつとも、受託国は、反対の取極がない限り、証人若しくは鑑定人に支払う費用、証人が任意に出頭しないため裁判所附属吏が介入することから生ずる費用又は第十四条第二項の規定の適用から生ずる費用の償還を嘱託国に請求することができる。

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V 訴訟費用の担保

第17条
締約国の裁判所において原告又は参加人となる者がいずれかの締約国に住所を有するいずれかの締約国の国民である場合には、その者に対し、外国人であること又はその国に住所若しくは居所を有しないことを理由としては、いかなる保証又は供託(その名称のいかんを問わない。)をも命ずることができない。
 前項の規定は、訴訟費用の支払を確保するため原告又は参加人に要求する費用の前納についても適用する。
 締約国間の条約であつて、それらの締約国の国民に対しその住所がどこにあるかを問わず訴訟費用の担保又は前納を免除することを定めるものは、引き続き適用する。

第18条
前条第一項及び第二項の規定又は訴えが提起された国の法律によつて保証、供託又は前納を免除された原告又は参加人に対し締約国においてされた訴訟費用の負担を定める裁判は、外交上の経路を通じて行なわれる請求に応じ、他の各締約国において、権限のある当局により無償で執行を認許される。
 前項の規定は、その後に訴訟費用の額を定める裁判についても適用する。
 この条の規定は、二の締約国が関係当事者の直接行なう執行認許の請求をも認めるための取極をすることを妨げるものではない。

第19条
訴訟費用に関する裁判は、当事者の審尋なしに執行を認許される。もつとも、費用の負担を命ぜられた当事者は、執行を求められる国の法律に従つてその後に不服を申し立てることができる。
 執行認許の請求について裁判をする権限を有する当局は、次の事項のみを審理する。
1 費用の負担を定める裁判の謄本が、その裁判の行なわれた国の法律上、真正なものであるために必要な条件を満たしているかどうか。
2 その裁判が、その行なわれた国の法律上確定力を有するかどうか。
3 裁判の主文が、受託当局の用いる言語又は両関係国間で合意する言語で作成されているかどうか。また、それらの言語のいずれか一方による翻訳文であつて、反対の取極がない限り、嘱託国の外交官若しくは領事官又は受託国の宣誓した翻訳者がその正確であることを証明したものが、裁判の主文に添付されているかどうか。
 前項1及び2の条件は、その裁判が確定力を有することを確認する嘱託国の権限のある当局の宣言又はその裁判が確定力を有することを立証するような正当に認証された書類の提出によつて満たされる。その当局の権限は、反対の取極がない限り、嘱託国の司法行政を担当する最上級の職員が証明する。それらの宣言及び書類は、前項3の規定に従つて作成し又はこれらに翻訳文を添付する。
 執行認許の請求について裁判をする権限を有する当局は、当事者が同時に請求する場合には、第二項3に規定する証明、翻訳及び認証の費用の額を定める。その費用は、訴訟費用とみなされる。

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W 無償の訴訟上の救助

第20条
締約国の国民は、民事又は商事に関し、いずれの他の締約国においても、当該他の締約国の法律に従い、当該他の締約国の国民と同様に無償の訴訟上の救助を受けることができる。
 前項の規定は、訴訟上の救助が行政事件について与えられる国においては、行政事件について管轄権を有する裁判所に係属する事件についても適用する。

第21条
無資力の証明書又は宣言は、いかなる場合にも、当該外国人の常居所地の当局又は、それがないときは、現在の居所地の当局が交付し又は受理したものとする。現在の居所地の当局が締約国に属せず、かつ、この種の証明書又は宣言を交付せず又は受理しない場合には、当該外国人の属する国の外交官又は領事官が交付し又は受理した証明書又は宣言で足りる。
 請求者が請求を行なう国に居所を有しない場合には、無資力の証明書又は宣言は、その提出されるべき国の外交官又は領事官が無償で認証する。

第22条
無資力の証明書又は宣言を交付し又は受理する権限を有する当局は、請求者の資産状況につき他の締約国の当局に照会することができる。
 無償の訴訟上の救助の請求について裁定する責任を負う当局は、その権限の範囲内において、証明書、宣言及び提供される資料を審査する権利並びに十分な心証を得るために追加の情報を求める権利を有する。

第23条
無資力者が無償の訴訟上の救助を請求すべき国以外の国にいる場合には、その者が訴訟上の救助を受けるための請求は、その者の属する国の領事官が、無資力の証明書又は宣言及び場合により請求の審理に役だつその他の証拠書類とともに、その請求について裁定する権限を有する当局又はその請求が審理されるべき国の指定する当局に転達することができる。
 司法共助の嘱託に関する第九条第二項から第四項まで、第十条及び第十二条の規定は、無償の訴訟上の救助を受けるための請求及びその関係書類の転達についても適用する。

第24条
訴訟上の救助の利益がいずれかの締約国の国民に与えられる場合において、当該訴訟に関する送達(その方法のいかんを問わない。)が他の締約国において行なわれるときは、受託国は、その送達につきいかなる費用の償還をも嘱託国に請求することができない。
 前項の規定は、鑑定人に支払われる費用を除くほか、司法共助の嘱託についても適用する。

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X 身分証書の無償交付

第25条
いずれかの締約国の国民である無資力者は、内国民と同一の条件で身分証書の無償交付を受けることができる。そのような無資力者の婚姻に必要な書類は、締約国の外交官又は領事官が無償で認証する。

Y 身体の拘束

第26条
身体を拘束する手段は、民事又は商事に関しては、執行の方法としても、また、単なる保全処分としても、それが内国民に対して用いられるものでない限り、締約国の国民である外国人に対して用いることができない。国内に住所を有する内国民が身体の拘束を解除されるために援用することができる事由は、それが外国で生じた場合においても、締約国の国民のために同一の効果を有する。

Z 最終規定

第27条
この条約は、国際私法会議の第七回会期に代表者を出した国による署名のため開放される。

 この条約は、批准されなければならない。批准書は、オランダ外務省に寄託する。
 各批准書の寄託について調書を作成するものとし、その認証謄本は、外交上の経路を通じて各署名国に送付する。

第28条
この条約は、前条第二項の批准書のうち四番目に寄託されるものの寄託の時から六十日目の日に効力を生ずる。
 この条約は、その後に批准する各署名国については、その批准書の寄託の日から六十日目の日に効力を生ずる。

第29条
この条約は、これを批准する国の間では、千九百五年七月十七日にヘーグで署名された民事訴訟手続に関する条約に代わるものとする。

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第30条
この条約は、締約国の本土領域については当然に適用する。
 いずれの締約国も、自国が国際関係について責任を有する他の領域の全部又は一部につきこの条約を適用することを希望する場合には、その旨を文書によつて通告するものとし、その文書は、オランダ外務省に寄託される。その文書の認証謄本は、同外務省が外交上の経路を通じて各署名国に送付する。
 この条約は、前項の送付の後六箇月以内に異議を申し立てなかつた国と同項の通告を行なつた国が国際関係について責任を有する領域であつてその通告の対象となつたものとの間で、効力を生ずる。

第31条
国際私法会議の第七回会期に代表者を出さなかつた国は、この条約に加入することができる。ただし、この条約を批准した国がオランダ政府から加入の通知を受けた後六箇月以内に異議を申し立てないことを条件とする。加入は、第二十七条第二項に定める方法に準じて行なう。
 この条約は、第二十八条第一項の規定に従つて効力を生じた後でなければ、これに加入することができない。

第32条
締約国は、この条約の署名若しくは批准又はこれへの加入に際して留保を行なうことにより、第十七条の規定の適用を自国の領域に常居所を有する締約国の国民に限定することができる。
 前項の留保を行なう国は、他の締約国の裁判所において原告又は参加人となる自国民につき、その者が当該他の締約国の領域に常居所を有する場合を除くほか、当該他の締約国が第十七条の規定を適用することを要求することができない。

第33条
この条約は、第二十八条第一項の日から五年間効力を有する。
 前項の有効期間は、その開始後にこの条約を批准し又はこれに加入する国についても、同様とする。
 この条約は、廃棄されない限り、五年ごとに黙示的に更新される。廃棄は、五年の期間が満了する少なくとも六箇月前にオランダ外務省に通告するものとし、同外務省は、それを他のすべての締約国に通知する。
 廃棄は、第三十条第二項の規定に従つて行なわれる通告に明示する領域の全部又は一部に限定して行なうことができる。
 廃棄は、これを通告した国についてのみ効力を生ずるものとし、その他の締約国については、この条約は、引き続き効力を有する。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 千九百五十四年三月一日にヘーグで本書一通を作成した。本書は、オランダ政府に寄託するものとし、その認証謄本は、外交上の経路を通じて、ヘーグ国際私法会議の第七回会期に代表者を出した国に送付する。

(以下省略)

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